今年に入ってから読んだ本の話
アドリアン・イングリッシュシリーズについてのブログを書くため番外編含む全巻がぱっと読めるKindle Unlimited に加入したので、それもあって今月は色々読みました。
(しかし何を読んでもAmazonはガザのことが頭をよぎるので解約しようかなと思っています……)
以下、読んだ小説のリストです。
『月への吠えかた教えます』
『ヒトの世界の歩きかた』
『星に願いをかけるには』
『すてきな命の救いかた』
『狼と駆ける大地』
/イーライ・イーストン著、冬斗亜紀訳(モノクローム・ロマンス文庫)
『BOSSY』
/N・R・ウォーカー著、冬斗亜紀訳(モノクローム・ロマンス文庫)
『ドラッグ・チェイスシリーズ(1)還流』
/エデン・ウィンターズ著、冬斗亜紀訳(モノクローム・ロマンス文庫)
『キットとパーシー』
/キャット・セバスチャン著、北綾子訳(すばる舎プレアデスプレス)
『ボーイフレンドをきわめてみれば』
/ライリー・ハート著、冬斗亜紀訳(モノクローム・ロマンス文庫)
全て翻訳M/M(男性同士のロマンス)です。
翻訳者の冬斗亜紀先生の訳文が好きなので、先生の訳書中心。
『月への吠えかた教えます』(原題:How to howl at the moon )を始めとする月吠えシリーズは、ヒトに変化できる能力を得た犬たち"クイック"が暮らすアメリカの田舎町を舞台にしたとにかく優しくて可愛いお話です。なんというか、読み終わった後に「良い話だったなあ」とほうっと息がつけるタイプです。
ファンタジックな設定と現実に接続した描写のバランスが面白い。
犬を飼っているので、ヒトになった犬たちがチョコミントシェイク飲み出したときはハラハラしました。(犬にチョコレートを与えてはいけません)
『BOSSY』は昨年完走しきれなかったので、頭から読み直しました。
お金持ち(しかも努力家!えらい)がいっぱい出てくるオーストラリアのBLです。とにかく景気が良い。都市型高所得者の解像度が上がります。
優しい世界観で、嫌なやつとかヒネた発言が出てこないので、癒されたいときにいいかも。
『ドラッグ・チェイスシリーズ』の1巻は、原文の文体の特徴なのかな、リズムが掴みにくくてはじめは読むのに苦戦しましたが、半ばからグルーヴ感と魅力的なキャラクターの勢いにぐいぐい引っ張られて楽しく読むことができました。
私の印象ですが、作者の筆が乗っている場面が結構わかりやすくて、ここが書きたいのかな?と伝わってくるところが良かった。
ちなみに昨年、7年ぶり(!)に邦訳版の2巻が出版されたとのこと。気になってレビューを覗いてみたら、7年の間に待ちきれず原書でシリーズを読破した方々が邦訳を歓喜してしていてほっこりしました。
『キットとパーシー』は1800年代のロンドンを舞台にした盗賊と貴族の陰謀と恋。キャラクターの造形が秀逸。
脚の怪我により盗賊業から引退したキットは、粗野でありながら真面目。人を愛したい心と大切な人を失うことへの怯えを胸に生きています。
対して、侯爵(公爵の息子)パーシーは思いやり深く、血を見るだけで気絶しそうになるほど臆病ながらも大胆にして奔放(主に性に)。
一見相反する性質を持った2人が心を寄せていく過程が素敵でした。
『ボーイフレンドをきわめてみれば』は、一読をおすすめします。極上のロマンス。「あなたを信じる」に丁寧に向き合った話です。
1ページ目の著者の言葉を引用します。
世の中になじみきれない、これはあなたのための物語。
主人公マイロは自閉症です。ロマンスの主人公が神経多様性者(ニューロダイバージェント)なのも珍しいし(他にも読んでみたいのでおすすめあれば教えていただけると嬉しいです!)、それを乗り越える障壁でなくマイロを構成するものの一つとして扱っている作品と翻訳版のプロモが好き。
マイロは24年の人生をかけて、自分の向き不向き、できることできないことを見極め分類し、生きる術を学んできた人。どうしてもままならないときもあるし、心ない扱いを受けることもあるけど、害意やすれ違いで傷を受けてもけっして自分自身の価値を見失わない。
マイロと惹かれ合うギデオンは、マイロの細かなこだわりや性質も含めてマイロであり、だからこそ自分にとって特別だと感じます。
とある場面で、予測しうる苦しみからマイロを守ろうとしたギデオンと、たとえ傷つくとしてもそれを選択する自由が自分にあると考えるマイロがぶつかるのですが、彼らは一方の意見に寄るのではなく対話で解決するのです。
全ての人がマイロのように秀でた分野があったり家族のサポートを受けられたり運命の相手と出会えるわけではないけど、自分のできる範囲で努力を積み上げ、誠意を持って人と向き合うことがもたらす明るい面を伝えてくれる1冊です。
漫画もとにかく色々読みました。
Kindle Unlimitedだとやっぱり、『ののちゃん』などを描かれたいしいひさいち先生が同人で発表されている『ROCA』がおすすめです。(紙版もイベントや通販で購入できます)
ポルトガルの歌謡ファドを極めるために突き進むおっちょこちょいで大雑把なロカちゃんと彼女をどやしつつも陰日向から支える同級生柴島さんの物語です。
女と女の物語が好きならとにかくこれを読んでほしい。
あと何故か『GAPS』シリーズ全5巻のうち2巻『GAPS risky days』だけがunlimited入りしていたのが面白くなって、里つばめ先生作品を再読しました。
『GAPS』は王子系年下クズ部下攻め×シゴデキ常識人おじさん上司受けのサラリーマンBLです。
攻め・片桐のクズさが一風変わっててくせになる。
複雑な家庭環境とか胸が痛む過去もなく、ただのクズ(というかむしろ多方面に非常にだらしない人)。新感覚年下クズ攻めですよ、彼は。
面白いのが、片桐は表の面を保つために特に無理してるわけでもなく、仕事熱心で、真面目な上司(受けの長谷川さん)を尊敬する気持ちもある。
あと! 里作品は毎話必ず帯や宣伝文に使えそうなパンチラインがあるんですよ!すごすぎ。
他にも独特のトーンワークとか映像作品みたいな画面構成とか思い切りのいい仕事描写とか色々話したいことはあるのですが長くなっちゃうな。
つくづく好きだと思うのは『GAPS』シリーズ、萌えるのは『俺が好きなど嗤わせる』です。
今回たくさん翻訳小説を読んで、原書の文体と読者の相性と同じくらい、訳文と読者の相性も読み心地に関わるなと思いました。
些細なことですが、
「〜〜でない。」とするか「〜ではない。」とするかでもかなり読み手の受けるものが変わると思うんです。
また、翻訳小説をあれこれ読んでいると、どんな原文からこの文体、口調へ翻訳されたんだろう!?という興味も出てきます。
複数の言語を理解できる、操れるということは、その数だけ世界を見聞きできるということなのだろうなあ。
『キットとパーシー』『GAPS』が好きなのは、物語を通してキャラクターの多面性を垣間見ることができるからかもしれません。そういうときすごく嬉しくなります。
いい奴だけどむちゃくちゃ腹立つことも言うとか、可愛くてぽわぽわしてるけどしたたかとか、いつもひねたジョークを飛ばすけど心のうちは不安に苛まれてるとか。
そんな感じの1月の読書でした。
寒いので『闇の左手』を再読して2月を迎えたいと思います。