ミステリが人生を彩るスパイスなのではなく、むしろ人生そのものがミステリ——大きな謎——なのでは?
というわけで、ミステリロマンスの金字塔アドリアン・イングリッシュシリーズのおすすめをしていきます!!!
【要旨】
海外BL小説専門レーベル、モノクローム・ロマンス文庫が創設10周年記念の電子50%オフフェア中なので、『天使の影』から始まるアドリアン・イングリッシュシリーズを読んで!
モノロマ10周年フェア期間 :
〜2024.01.04まで
(現12/29)
Unlimited入会してると番外編まで読み放題らしいです
honto
アプリの使用感が結構好き
定期的に配布されるBL全商品25%OFFとかいつも何やらで配布される20%OFFクーポン等各種割引を併用可!
こっちはスターターパックの全5巻セット。番外編『So This is Christmas』は含まれていないけど、1巻売り・単話売りもあります。
翻訳小説は厚みや価格でハードルが高いので、お求めやすい機会に挑戦してみてほしい!
訳者の冬斗亜紀先生が出版前にご自身のサイトでシリーズについて書かれていた記事が入り口として素晴らしい名文なのでそちらのリンクも。
目次
【アドリアン・イングリッシュシリーズ】
ミステリ専門の書店主兼作家のアドリアンは困り果てていた。友人にして唯一の店員であるロバートが惨殺されたのだ。
混乱にとどめをさしたのは、ワイルドな魅力を持ちながらも差別心を隠そうとしない警官リオーダン。彼はアドリアンへの疑いをほのめかす。
なぜか?
アドリアンとロバートにはゲイという共通点があったから。
アドリアンは仕方なく無実を証明するために(そしてほんの少しだけ、持ち前の好奇心が顔を出してしまったため)、独自の調査に乗り出すことに。
気さくさと鼻持ちならなさを併せ持つリオーダンと協力と反発を繰り返しながらも謎に迫っていく彼の背後には、得体の知れない影が迫っていた……。
ミステリM/M(男性どうしのロマンス。BLに近い)小説を多数執筆するジョシュ・ラニヨン先生の人気シリーズ。
すごいのは、ミステリとロマンスがどちらも添え物ではなくメインとして存在しているところ。お得!
不気味な事件も、誰かを愛しく思う喜びも、それゆえの苦しみも、全てをひっくるめて人生は進んでいく。くたびれていても、うんざりしていてもかすかに光る希望を求めて生きていくアドリアンの人生をページ越しに垣間見ているような作品です。
【登場人物紹介】
悲喜こもごもの大河をもがきながらも渡りきろうと奮闘する主人公たちを紹介します。
2人ともややひねくれていて、物事を斜めに見ずにはいられない。しかし歪んだユーモアで覆った内側には確固とした譲れないものを持った頑固者です。
アドリアン・イングリッシュ
黒髪に青い瞳、32歳、身長182cm。
自身が経営するクローク&ダガー書店とミステリ小説と映画をこよなく愛する青年。
父の早逝や、少年時代患った大病とその後遺症から、彼が世界を見つめる視線はかなりシニカル。常に皮肉なジョークをぽんぽん繰り出す、物語の語り手です。
長く付き合った恋人と別れた傷も癒えておらず、友人で店員のロバートも勤務態度は散々で、最近知り合った刑事リオーダンは自分を犯人と決めかかる。散々な苦労続きですが妙に太々しいところが彼の魅力。
ジェイク・リオーダン
短く刈った金髪に琥珀の瞳、39歳。大柄なロサンゼルス市警の刑事。
よく食べ、よく飲み、筋トレに余念がありません(アドリアンはその様をライオンと評しています)。射撃の腕も優秀。
肉体的にタフなだけでなく頭が切れ、刑事の勘も鋭い。
しかし、ある方面に関しては頭でっかちで古くさく、偏見を隠さない嫌みなところがあります。ただ、その固定観念に起因する自己嫌悪に囚われ、抱えた矛盾に内側からさいなまれている人。
ジェイクはシリーズを通し、彼を縛る身の内から生じた強固な鎖と格闘していくことになります。
他にも、ジェイクの相棒で小説家志望のチャン刑事、アドリアンの慌ただしくお節介な家族たち、書店の挙動不審な店員アンガス、各巻限りのゲストも登場します。
各巻冒頭に登場人物紹介があるのでブックマーク推奨!
【各巻あらすじ】
各巻の引用とともに簡単なあらすじを説明します。
1巻:『天使の影』
親友の殺害犯として嫌疑を向けられた本屋兼ミステリ作家のアドリアンは、刑事リオーダンと反発しながらも謎に迫る。
2巻:『死者の囁き』
“「店長のところの刑事には、なんて言えばいいですか?」
「あれはうちのところの刑事じゃないから。あれは、警察署の刑事だし」”
ジェイクとの不毛な関係に疲れたアドリアンは文筆業に専念するため祖母の遺した牧場を訪れた矢先、敷地で遺体を発見する。
3巻:『悪魔の聖餐』
“僕らの関係は、決して楽なものとは言えなかった。”
ジェイクとの関係が前進したかに思えたアドリアンを悩ませるのはバイトのアンガス。悪魔教の信徒に狙われているという彼にボーナスと休暇を出すが。
4巻:『海賊王の死』
“「eのつくアドリアンだ」そう、部下に教える。ジェイクと僕の視線が合った。「ミスター・イングリッシュとは前に面識があってな」”
自著の映画化が決まり、企画のために出席したパーティでアドリアンはまたもや殺人事件に遭遇する。
5巻:『暝き流れ』
“「わかっている。大きな望みだというのはな。大きすぎるのかもしれないとも。だが俺は、希望を捨てたふりをするつもりもない」”
拡大工事中の書店に真夜中の侵入者が。確信を持てないアドリアンが頼ることにしたのは、警察を辞職したジェイクだった。
番外編:『So This is Chiristmas』
読んで!!!!!
これに尽きる。
各種電子書籍配信サイトでも結構長めにサンプルが掲載されているので雰囲気を掴むのにおすすめです。
【魅力①】焦れったい関係性
私は「人と人とはわかりあえない」ことにものすごい萌えを感じるたちです。
わかりあえない他者がわかり合おうとしてお互いの間にあるものを埋めたり擦り合わせたりして寄り添おうと苦心する過程に思いやりを見出してしまう。
なので、
「あんたたちもっとちゃんと話し合いなさい!
……あーあーあー!もう!ほらみたことか!」
という展開がだいっっっ好きで。
アドリアン・イングリッシュシリーズはそういう萌えの人々にとって、一種の”答え”になるんじゃないかな。
アドリアンもジェイクも、相手のそばにいたいがために問題を見て見ぬふりをするんです。
でも、そんな関係が上手くいくはずもない。
嬉しいこともつらいことも予期した通りには起こってくれない。感情はままならないから。
破壊と再構築の先にこそ人間関係が!ある!(のかもしれない)
絶対好き合ってるじゃん!という2人が目に見えない障壁のせいでもだもだと自分の気持ちを直視できないでいるのが好きな人におすすめです。
【魅力その②】文章がうますぎる
各巻あらすじで引用した通り、とにかく文章が上手い!巧すぎる!
たとえば、4巻『海賊王の死』の冒頭。
”僕向きのパーティとは言えなかった。
まあ、死人が出たあたりは僕好みだと思われるかもしれないが、僕だってそんなものを楽しいパーティの基準にしているわけでもなければ、死体との対面を日課にしているわけでもない。”
この短い一節から、
・パーティ中である
・人が死んだ
・殺人事件に何度か巻き込まれている
・が、最近は遠ざかっていた
・語り手は皮肉屋
ということが浮かび上がってくるわけです。
すごくない!? これが技巧……!
細やかなテクニックがきらりと光っているので、読んで楽しく、しかも文章を書くうえですごく参考になります。
こちらも4巻『海賊王の死』から引用。ロマンティックな場面ですが、ここにも名人芸が。
"「お前が、ほしい」
ジェイクが囁く。
「ええと、まあ、後で返してくれるなら……」
僕は揺らぐ声で返し、ジェイクは真面目くさって言った。
「感謝する。良好な状態での返却を約束する」”
神妙な場面になるとつい茶化さずにはいられないアドリアンの性格と、警察官ジョーク(わかりづらい)で応じるジェイクの性格をはっきり出しつつイチャつきを書くという。
ことに及ぶとなったときの性的接触と心情描写の織り交ぜ方も巧みです。小説表現とロマンス小説としてのパワーを感じます。
「ロマンスのためにページが割かれている」のではなく、「ロマンスが物語を推進するエンジンになっている」のです。
【挿絵その③】装画・挿絵
商業BL大好き!という人、小説を読むのは少し苦手かも……という人に朗報!
装画と挿絵を担当するのは、BL漫画で有名な(『やぎさん郵便』など)草間さかえ先生!
やったー!
誰あろう私も草間先生きっかけで読み始めた人間です。
描き下ろしの人物紹介ページも楽しいし、一枚絵として眺めてもうっとりする挿絵が物語を読むガイドをしてくれます。
もちろん挿絵と関係なく自分で人物像思い浮かべるのもあり!
ラニヨン先生の文章は情景描写が細やかなんですが、読み手が考える余地も残してくれるので、想像の翼をばっさばっさ広げていきましょう。
映画とか好きなら俳優のイメージとかしても良いかも!
私は、ドラマになったら配役は、吹き替えは……日本版だったら……ドラマCDなら……と7年くらい考え続けています。
【まとめ】
冬斗亜紀先生による翻訳の素晴らしさにも触れたかったのですが、長くなったので一旦締めます。
愛することは人生をかたちづくるあらゆる要素の一つに過ぎない。
しかし、何かを賭してでも掴み取る価値があるのではないか?
あたたかな木漏れ日のさす小道だけでなく、時に暗闇の中を手探りでさまようことになろうとも。
傷ついても、怖々とでも、手を伸ばし続けるアドリアンの歩み(と何件かの殺人事件)の物語です。
そしてジェイクという、自分自身を受け入れることのできない男が辿る、茨の道の物語でもあります。
この作品を読むことは火に触れるような痛みを伴うかもしれません。
それでも、愛することと同じように、面白い物語というものは読む者の胸を締めつける激しい痛みと、どきどきするような喜びをもたらすものです。
活字から得られる気持ち良さをめいっぱい教えてくれるジョシュ・ラニヨン先生と冬斗亜紀先生の文章を通して、アドリアンとジェイクの行く末を見届けてみませんか?
もし1巻を読んだら、2巻も読みたくなって、そうしたら3巻も読まずにはいられなくて、ということは4巻……5巻も読まなきゃ…………後日談も出てるの!?!?!?
と、なること必至かと思われますので、ご購入の際はとりあえず3巻まで買っておく(積んでおく)のがおすすめ。
(でも、3巻の引きがあまりにも読者に不親切だよね……となったため、4巻の告知が紙版の3巻・重版1〜2巻に挿入される事態になったほど、3巻はッッッ!!!です)
お願いがあります。
読んだら感想をどこかに放出してください。一言でも、なんでもいいので。
そしてよければ私とアドリアン・イングリッシュシリーズのお話をしてください!!!!!
初版に封入されていた特典掌編の話とかも、したい……。
なので! 読んでください!
最後にもう一度リンクをドン!
公式サイトの試し読みページでは、なんと本文を縦書き二段組の縦スクロールで読めちゃいます!
https://www.shinshokan.com/monochrome/excerpt/AE1.html
(実際の製品は文庫サイズ一段組です。電子書籍だと文字サイズを拡大したりレイアウト変更が可能)
※注釈※
【M/M】
male(男性)同士の/(スラッシュ。×的な感じ)。男性と男性のロマンスです。日本で言うBLに近い言葉。
有名どころは最近アマプラで製作・配信された映画の原作『赤と白とロイヤルブルー』など。
(私は同じく二見書房で邦訳出版された『ボーイフレンド演じます』を激推ししています)
【モノクローム・ロマンス文庫】
BLコミックスでも有名な新書館が立ち上げ、10年目に突入したM/M翻訳文専門レーベル(≒翻訳BL専門)です。
その看板作品とも言えるのがアドリアン・イングリッシュシリーズ!
「看板」はいち読者の印象ですが、「このBLがやばい!」に複数回取り上げられたり、三浦しをん先生激推し作品だったりします(三浦先生はコラムや3巻の解説文で愛を公言されています)。